卵が先か鶏が先か〜ムーブが先かホールドが先か〜
さいきん、ネットデブリみたいなブログを書き散らしてます、と、お会いしたクライマーさんにお話することがあるのですが。
うれしくもお読みいただいて、とても的を射た感想をいただきました。
「ムーブ先行で、だいたいの課題を考えてるよね。でも、ホールドの形状と持ち方が、結果的にそのムーブを選択させている(強いている)、という考え方もあるよ」
目から鱗。感動したわ。
やー、これまさに、卵が先か鶏が先かだと思うんですよ。
卵と鶏が存在するという事実は揺るぎない。でも、卵が先か鶏が先かは分からない。
登れたという結果は変わらない。でも、ムーブが先かホールドの形状が先かは分からない。
かなり深い話だと思うので、ちょっと掘り下げてみたいと思います。久しぶりに思考実験みたいな記事になっちゃうかもしれませんが。
例1。@スポドリ。
ブログのトップ画像にもしてるやつです。
まあ、きれいめのダイアゴナルだと思います。
もちろん、他のムーブもあるかもしれませんが、ホールド配置的に、どう考えてもダイアゴナルが楽です&きれいです。
と、いうことは、"他の選択肢が考えにくい"以上、ホールドによってムーブが規定されている、と見るのが自然です。
cf)例2。@パンプ秋葉原。
以前の記事で書きましたが、上部の取り付きまでに3通りのルートがあった課題。
複数のルート=複数のムーブが選択できる理由としては、ホールドの多さでしょう。
"フットと解釈するか手で持つと判断するか"
"手順をどう捉えるか"
によって、選択するルート=ムーブが決まります。
つまり、"ホールド数によってムーブ選択の自由を与えられている"状態。
この場合、自分がある程度主体的にムーブを選択することができそうです(この時は、保持力勝負を避けて、リーチによるデッドを選択した)。
例3。特殊ムーブの場合。@高田馬場GRAVITY。
これもどっかの記事で書きましたが、ホールドに座ることが核心でした。
色々試しましたが、たぶん他の動きでは完全に無理です。
例1以上に、"ホールドによって1通りのムーブを強いられている"と言えるでしょう。
あと、スラブにおけるノーハンド課題なんかもそうですね。手が使えない以上、たぶん回答は1通りしかない。
高田馬場GRAVITYだと、つり輪ムーブ部分も。あれも1通りだと思う。
例4。足自由課題&壁の形状が特殊。@アングラ。
当たり前ですが、足自由課題ではムーブなんて無限にあります。よっぽどホールド数が少なくない限り。(だいたいの方針はあるけど、足自由といえど)
そういう意味では、やっぱりホールド数の多寡がムーブの自由度に繋がる、という方向性でいいような気はする。なんかものすごい当たり前だけど。
あとは、この壁面の場合、"マントリング"というムーブに向き合うことは100%求められます。だってマントル壁だし(笑)。
加えて、スラブ(緩傾斜)で薄いホールドに乗り込むこと、というのも、かなり多くの場合で求められます。
ので、ホールドの「形状」と「数」と「壁面」が、ムーブを限定し得るよ、というのが、いちおう今のところ出てきた指針になります。
ホールドの「形状」が特殊だと(つり輪とか、どーしても片方の手でしか掴めないようなものとか、座らなきゃいけないとか)、それは即ムーブを限定します。
特殊までいかなくても、例えばアンダーだとむっちゃ効く、上からだとあまり効かない、というような場合、上からの持ちを選択するメリットは薄いです。これも、アンダーで持つこと+それに合わせた前後の動きを、ホールドが規定してるわけですね。
ホールドの「数」が少ないと、これもほぼムーブを限定します。ランジ一発課題なんかがその最たるものですね。他のムーブはあり得ない。
逆に多ければ多いほど、ムーブの幅は広がる。
大抵の場合は、極端に多い/少ないってことはないので、2〜3の選択肢がある、って課題が多いのだと思います("数"だけの要素に絞って見れば)。
「壁面」。これも、"特殊"な場合にムーブを限定する、という理解でよいのかな。
緩傾斜における乗り込み、マントル壁におけるマントリング、ルーフにおけるとにかく足を切らさないこと(またはキャンパ)、など。
さて、ここまでを踏まえて課題を見てみましょう。
例5。@三河島YJ。強傾斜。
結論から言うと、いくつかのムーブがある課題です。
左端中段、茶色の大きなホールドに行くまでの4手くらい、ヒールをうまく使うのがコツなんですが、「いつ」「どこに」ヒールをかけるかは、割と選択肢があります。
これはたぶん、ホールドの形状(ある程度持ちやすく、横に長く大きいこと)が、複数のムーブを許容しているのだと思います。
ただ逆説的に、ホールドの「数(配置)」と傾斜が、「ヒール」というムーブを要求(規定)している、という見方も出来ます。
「いつ」「どこに」かけるかは自由だけど、「ヒール」は使ってね、と。
こんなん。結果的にダブルヒールを選択してますが、別に片方ヒール、片方トゥでも問題なし。
ある意味ではホールドに規定されているし、ある意味では自由が残されているとも言える。
で。
ゴール取り。
セッター想定はこれなんですよ。
右手うすいアンダー(指2本、中薬)
右足はありますが、リーチによって踏めたり踏めなかったりする、って状況。
がっちり左ヒールがかかれば、安定するって形です。
基本的にはこれがベストで、他のムーブはない、はずなんです。
ホールドの配置(or数)と形状が、ゴール取りにおけるヒールを強いている、と。
でも、調子が良い時には、このムーブが出来たんです。
(最後に出たぜ下手な絵。)
薄い二本指のアンダーで引きつけて、引きつけて、壁に近づいて距離を出してゴール取り。
ヒール不要。デッドもしてない。引きだけ。
「基本的にホールドによってムーブが規定されている」「にも関わらず、その想定を離れたムーブを取る」瞬間ですね。
どういうことかと考えてみると。
「ホールドの形状、数、壁面によって、ムーブは、差異こそあれど、ある程度規定される」
「規定されるが、グレード(難度)を上げていいなら、他のムーブは存在する」
「ある人にとって6級の動きが、ある人にとっては4級のムーブだったりする」
ってところじゃないかと。
つまり、「ホールドはムーブを決める」が、「そのムーブが、自分にとって難度が高いと感じるとき」、「一般的には、想定ルートより難度の高い動きであっても」、「自分にとっては、それ以下の難度であると感じるならば、その選択をすることができる」。
......なんか当たり前のこと書いてるような。
まあ、あれですよね。私自身がムーブ先行なことは認めてますし、自分にとっては、それでいいとも思ってます。
ただ、そのムーブ先行ってのも、実はホールドに規定されている部分がある。けっこうある。課題によっては、かなりある。
ってことを意識するだけでも、多少は違うのかもしれませんね。
たしかに、困難(=登れない課題)に出会ったとき、
「ホールドの持ち方を工夫しよう」とは、あまりならないもんなあ。第三優先くらい。
「他のムーブで解決出来ないか」
「見落としはないか」
が、それぞれ第一、第二優先なので。
そのへんの考え方の違いなのかもしれない。
卵が先か鶏が先か、という。